5月、高校1年生がオンラインで「SDG4教育キャンペーン2020」に参加しました(本イベントは昨年まで「世界一大きな授業」と呼ばれていたものです。過去、本校で実施した際の様子はこちら)。
このキャンペーンは、教育協力NGOネットワーク(JNNE)が主催し、プラン・インターナショナル・ジャパンなどが協賛している活動。「持続可能な開発目標(SDGs)」が掲げる目標4「質の高い教育をみんなに」を2030年までに達成するために、子どもたち自身が声を挙げることで、政府の教育政策改善を促そうというキャンペーンです。
具体的には、まず、ワークシートを使って教育課題や教育政策への理解を深めます。このワークシートは、日本に存在する7つの政党が、以下の課題に関する賛否と見解を、名前を伏せながら示したワークシートです。
質問1:教育予算をOECD平均並みに増やす
質問2:学校における暴力の根絶をすすめる
質問3:外国ルーツの子ども・大人の学習の場
質問4:性差別やジェンダー平等を学ぶ機会
質問5-1:政府開発援助(ODA)額を増やす
質問5-2:基礎・中等教育への支援割合を増やす
質問6:教育に特化した国際機関への拠出増
このワークシートを読み、A~G党のうちから最終的に投票する政党を決定し、その政党へメッセージを送ります。これに加えて、日本政府に対して教育政策の提言を行うことで、子どもたちの声を政策に反映させるというキャンペーン。
このキャンペーンそのものは、個人での参加も可能ですが、教育課題を多角的に検討し、理解を深めるべくグループワーク形式で実施することにしました。
5月の晃華学園はteamsを使い、リアルタイムで授業を行っていたため、これを用いてグループワークを実施。具体的には、1クラスに7~8人のグループを5つ設定し、生徒のみでグループワークを進め、教員はこれを見守ります。この時、議論を活性化させるために、各グループにファシリテーター役の生徒を配置することにしました。
teamsを通じてファシリテーターを募集すると、21名もの生徒が名乗りを上げてくれました。政党の政策を扱いながら、始まったばかりのクラスで、グループワークのファシリテーターを、しかもオンライン上で行うということは勇気のいることです。声を挙げてくれた生徒たちに感謝です。
実際にキャンペーンを行う前に、21名のファシリテーターを3グループに分け、教員2人でレクチャーを実施しました。レクチャーでは、キャンペーンの目的や、ファシリテーターとは何かを講義。さらに、教員がファシリテーター役になり、21名に対して、実際にキャンペーンを行うことで、キャンペーンへの理解を深めました。
生徒へのファシリテーションレクチャー用のスライド
そして、実際に各クラス、オンラインでキャンペーンが実施されていきました。「自分のパーソナリティーにあったファシリテーションがある」という教員のアドバイス受けて、ファシリテーターは様々な工夫をこらして、グループワークを運営しました。
教員が作成した、パワーポイントを利用しつつ、自分で補足情報を加えて、しっかりとキャンペーンの目的を共有するファシリテーター。
教員が用意したスライド
自分で作成したスライドを用いながら、アイスブレイクを行うファシリテーター。
スライドを利用してアイスブレイクをするグループ
グループワークの導入として、「9月入学」を例に挙げながら、「教育政策が私たちに大きな影響を与えるからこそ、私たちが声を挙げるべきでは?」と投げかけるファシリテーター。
生徒たちの積極性に、目を見張るばかりです。
また、実際のグループワークでの話し合いの様子から、ファシリテーターではない生徒たちも、積極的に参加していることが分かりました。具体的に紹介していきます。
例えば、「質問1~6どれを重視しましたか」というファシリテーターの問いかけに対して、質問1の「教育予算をOECD平均並みに増やす」を重視した生徒の多くは、その理由に関して、公立校か私立校かでオンライン授業の導入に差が生まれたことを例に挙げるなど、現在の問題と関連させて語ってくれました。そして「現在のような格差が広がっている状況は是正すべきで、そのために予算が必要だ」と主張していました。
質問4の「性差別やジェンダー平等を学ぶ機会」を重視したというある生徒は、その理由を問われ、「ジェンダーの問題は、質問2の学校での暴力、つまりいじめなどにもつながる」とそれぞれの質問を横断的に捉えていました。
ジェンダーに関する話し合いは多くのグループ盛んでしたが、これに対してあるグループでは、「男女の不平等に焦点を当てるならば、質問3のように、日本国内いるのに教育を受けられていない外国人がいる、という不平等についても焦点を当てたい」と、教育機会の均等について多角的に考え合っていました。大人が唸るような議論の展開です。
実はこのワークシート、7つの政党がほぼ全ての質問に賛成。政党ごとの違いを理解するためには、賛否ではなく、見解を読み込まねばならないというものでした。
「高校1年生には難しいかな?」と思ったのは、教員の取り越し苦労。例えば、質問4「性差別やジェンダー平等を学ぶ機会」に関しては、ある生徒は、ジェンダーに関する教育を実施する場を「学校教育」と明示しているのか否かを分析し、「学校という場であれば、多くの人々に影響を与えるため、ジェンダーギャップを埋めるためにより効果があるはず。従ってこの党を支持します」と主張していました。
また、質問3「外国ルーツの子ども・大人の学習の場」に関して、あるグループでは、「夜間中学校で学ぶべきか、それとも外国語と日本語の通訳をICT機器補助しながら、多くの中学生と同様、昼間の学級で学ぶべきか」などと、学びの場に注目し、各政党の主張を分析していました。
実は、この高校1年生は、中学3年 公民で行った「選挙」という授業で、自分たち自身で政党を立ち上げ、マニュフェストを作成しています。そこでの経験が、このような鋭い分析の背景にあるように思います(「選挙」に関する「さぴあ」での取材記事はこちら。「選挙」に関する本校ブログはこちら)。
各グループでのグループワークは無事終わり、生徒たちは投票と政策提言を行いました。実際に生徒が行った政策提言と感想を紹介します。
【政策提言】
高等教育機関への支出を増やすこと,日本に暮らす外国にルーツをもつ子どもや大人のための日本語教育支援を全国に行き渡らせること,そして『Education Cannot Wait(教育を後回しにはできない)』の基金への拠出です。
日本政府による高等教育機関への支出は,GDP のうちの2,9%にすぎません。これはOECDの加盟国35ヵ国の平均を下回っていて,この影響で日本では各家庭の教育費の負担額が増大し,その結果収入による教育格差が起きています。しかしながら,10年20年後の社会を担っていく今の子供達が受ける教育で差ができてしまうというのは深刻な問題であり,今すぐに対策を講じなければならないことは明らかです。
また日本では,外国の国籍を持つ人々のための日本語教育支援が自治体によってばらつきがあり,全ての人が等しく学べていない状況です(夜間中学校が9都府県33 校しかない)。これはSDGs の目標である「すべての人が包括的で公正な教育を受けられるようにする」を達成してません。その上少子高齢化の日本では,今後外国人労働者がとても大事な働き手になるので,早急に改善しなくてはなりません。
そして日本は海外への教育のための拠出も少なくなっています。ECW の基金に至っては全く拠出していません。ECW とは,緊急時においての教育に特化した援助機関でありますが,緊急時こそ教育は大事です。まずは少しでも拠出することが大きな意味を持つのではないでしょうか。
新型コロナウイルスの影響で国の予算は膨張し,財政状況はますます悪くなっています。しかし,未来を担う今の子供達への教育を重視しなければ,今後の社会を良いものにはできないでしょう。教育費の問題であっても,外国人の日本語教育支援の問題であっても,重要なのは“平等”です。どうか早急に高等教育機関への支出を増やすこと,外国籍の子どもや大人への日本語教育支援を全国に行き渡らせること,ECW 基金への拠出をご検討いただき,実行していただきたく思います。どうぞよろしくお願いいたします。
【感想】
日本で生きているのに、日本が国際社会においてどのような立ち位置にいるのかを意識した事が意外なほど無かった事に気が付いた。国内のことについても自分に直接的に関わる問題にしか目を向けず、自分が生きる一番身近な社会の理想と現実に想いを馳せることもなかった。しかし今日、このような機会で教育について学び、自分の考えを探っていくことで理想とは程遠いこと、そして自分には選挙権が無くともこうして理想に近づけていけることを知った。友達と話し合い意見を交わすことで、さらなる問題点や課題に対する解決の道筋が明確になった。自分を取り巻く環境が左右するものは大きく、そして現在良いとは言えないけれど、私達はこれからの社会を創っていく人として変えていく事ができる力を持っている。これからはもっと視野を広げ、自分と周りの環境が置かれている状況を見、環境を動かすことのできる政府に声を挙げていけたらいいなと思った。
声を挙げる経験をした彼女たちが、主権者として成長していくことを期待します。