感染症拡大防止が重要な今日の世の中。各教育現場でも、徹底した防止策が取られています。
一方で、生徒の学ぶ権利を保障することも大切です。晃華学園では、休校期間中のオンライン授業をはじめ、生徒の学びの機会をなるべく減らさぬよう独自の取り組みを重ねてきました(休校中の取り組みをまとめた記事はこちら)。
休校も明け、少しずつかつての日常に近づいておりますが、依然として授業を行う際には細心の注意が必要です。
グループワークを行う際にも多くの制約があり、これまで数学で実践してきたかるた大会やゼミ形式授業などは、コロナ禍では無対策での実施が難しいと考えられます。
しかし、たとえコロナ禍だからといって、晃華生から「楽しんで数学に取り組む」「自分で考えて自分で発表する」という機会が無くなっても良いということではありません。そこで、今最も “思考力・表現力・判断力” が必要とされている高校3年生の授業で、ICTを活用して『受験生による教材作成』『受験生による映像授業』を行いました。
休校明け直後、『受験生による映像授業』の準備段階として、『受験生による教材作成』を行いました。範囲は場合の数・確率です。
指定された問題の中から1人1問選び、その問題の模範解答をそれぞれが作成します。その際、ただ模範解答を記載するだけではなく、受験本番でも役に立つよう、わかりやすく・色を自由に用いて・大切なところを一言でまとめるようにしました。
ただ正答を出すだけではなく、考え方や思考の順を、図などを交えて表現しなければなりません。そのためには、生半可な思考では丁寧な説明ができず、またどこまでを文字で書いてどこからを図で描くのか、適切に判断をしなければなりません。
どこまではわかっている前提としてよいのか、またどこからは丁寧に解説すべきなのか、適切に見極めながら進めていきます。
手書きだけではなく、PCを用いて解答を作成している生徒もいました。
大切なところを一言でまとめ、まるで格言のようにわかりやすくまとめてくれた生徒もいました。さながら参考書のようです。
出来上がったこの教材をそのまま定期テストの範囲とし、それぞれの生徒が、他の人が作った模範解答を元に学習を進めました。
他の人が作成した模範解答を用いることを通して、自らの解説を振り返ることができます。定期考査の出来も、とても良いものでした。
模範解答については、Microsoft Teamsを活用し、生徒同士で工夫点・感想を共有しました。
解説内容と同じくらい、図や字の綺麗さ・色遣いを重視している生徒が多かったようです。
2学期に入り、『受験生による映像授業』がスタートしました。
範囲は整数。多くの入試問題を提示し、その中から生徒が自分で取り組みたい問題を選択する形で、全20問の問題集を作りました。受験生としては基礎的でありつつも、深い理解が必要な、解説しがいのある問題が集まりました。似た問題もあり、解説の違いが楽しみに感じられます。
解説動画は、iPadを用いて作成します。問題の解説を喋りつつ、事前に作成したプリントにメモを書き足していき、その手元を撮影することで、映像授業を作成します。
授業時間中に作成した生徒もいれば、自宅にある機器を用いて時間をかけて作成した生徒もいます。
それぞれが創意工夫を持って映像を作りあげています。
生徒によっては、なんと割り箸を使って1ステップずつ丁寧に解説をしたり…
自分でスライドを作成し、自動音声をあてはめたりと、教師顔負けの工夫をする生徒もいました。
完成した動画は、全員で閲覧し、コメントを残していきます。
生徒からの人気が最も高かった動画は、上智大学の入試問題を解説した動画でした。「長いのに最後まで説明が丁寧」「問題文がずっと見えているのが良い」「補足説明のための用紙が用意されているのがすごい」など、普段授業をしているこちらもなるほどと思わされるコメントが多くあがりました。
終了後、生徒からFormsを活用してアンケートをとりました。生徒からのコメントを紹介します。
普段なら少し疑問があってもそういうもんだよねとスルーしてしまうけど、映像で誰かに説明するとなるとプロセスだけでなく「なぜ」を意識した説明が求められるため、自分の中で言語化する必要が生じ、めんどくさいと思いつつも、この問題は絶対解けるというレベルまで持ってこれた。 |
映像を作るのは、手元をどのように映せばいいのかや動画の編集などで少し時間がかかってしまったけれど、どのように解説をすれば相手に伝わるかを考えながら解説したことで自分の問題への理解が深まったと思う。こんなに一つの問題に向き合うことがなかったけれど、映像を作る際に一つの問題に向き合ったことで、問題一つから色々なことが得られることに気付いた。たくさんの問題に触れるよりも効率が良い気がした。 |
問題の解答を文字で書くことは難しくないのに、それを噛み砕いで言葉で伝えるのは難しいなと感じました。先生たちすごい。 自分が解いた問題への理解は深まるが、その他の問題に関する理解は以前と変わらないと思った。 |
少なくとも1問は自力で考えて解くのでその1問に対しての理解はとても深まったが、他の人の作ったものは解法が人それぞれだったので理解するのに苦労するものもいくつかありました。自分では思いつかない解法もあったのでその点は新鮮でした。個人的に、一学期にやった冊子を作るタイプの方が解法が見易かったので、そっちの方が好みです。 |
対面式の授業を1回聞く→復習 よりも 映像授業を繰り返し見る→復習 の方が好きなので解説が動画として残るのは有り難かったです。ただ、自分が撮るとなると誰も気にしてないのにこだわってしまうところがあるので時間は取られました。(問題集が宿題になってそこに時間をさくよりは良いと思ったので高3なのに!とはあまりなりませんでした)世の中で授業をしている人はすごいなと思いました。 |
解説動画を作成することを通して、色々なものを学んだようです。紙の冊子の方が好み!という意見も良いですね。映像授業より参考書派である、ということに気付けたのも素晴らしいことです。
一方で、友人が作成した動画については、理解度をあげることができていない、ということが数名の生徒から課題として寄せられました。これはつまり、「映像を見るだけでは本質的な理解ができない」ということに気付いた、とも捉えられます。どの授業・映像授業・参考書でもそうですが、他人から教わっているだけではなく、自分から能動的に思考を深めていくことが大切であるということではないでしょうか。
個人的には、『教材作成』『映像授業』のどちらも、全体のクオリティが非常に高かったことに驚かされました。また、作成の過程で様々なことを学び取りつつ、個性豊かな工夫を作り上げていく姿勢そのものにも感動しました。
現在生徒たちは、次の課題である『これまでの入試を大学入学共通テスト“風”にアレンジしてみよう』に取り組んでいます。
生徒達がどんな「共通テスト“風”」の問題を作成してくるのか、今から楽しみです。
【過去の数学科の報告記事】