ホロコースト教育資料センターの方をお呼びして、ホロコーストについて理解を深めた中学2年生。その事後学習として、「差別」・「勇気」・「平和」・「社会」・「人間」といったホロコーストに関わる抽象的なテーマについて、グループごと話し合い、論じるという課題に取り組みました。
しかし、何の手掛かりもなく論じるには少し難しいテーマです。そこで、生徒たちにはホロコーストに関わる次の5つの作品を読んだり、鑑賞したりしてもらい、論じ合う手掛かりにしてもらいました。
・『ハンナのかばん』(書籍)※書籍版には講演では聞けなかった内容が含まれています。
・『あのころはフリードリヒがいた』(書籍)
・『アヴェ・マリアのヴァイオリン』(書籍)
・『ライフ・イズ・ビューティフル』(映画)
・『杉原千畝』(映画)
それぞれの作品を読み、鑑賞した生徒で5人1組のグループを作り、作品の内容と関連づけながら、「差別」・「勇気」・「平和」・「人間」・「社会」といった5つのテーマについて話し合っていきます。
ここでポイントとなるのは、作品の内容によって、5つのテーマの見方が異なってくるということ。例えば、強制収容所に送られるユダヤ人を主人公とした『ライフ・イズ・ビューティフル』と、ドイツ人が差別に加担してしまう姿を描いている『あのころはフリードリヒがいた』では、差別される側・する側といった大きな違いがあります。また『あのころはフリードリヒがいた』と、差別に抗い職を追われた外交官を描いた『杉原千畝』では、差別をする側・抵抗する側といった大きな違いがあります。
これらの作品を手掛かりに、生徒たちはテーマについて話し合いを始めました。
難しいテーマであり、時間も50分と短かったのですが、生徒たちは体を寄せ合いながら活発に話し合い、一つ一つのテーマについて理解を深めていきました。このような難しいテーマについて積極的に話し合う姿から、生徒が確実に成長しているということを実感します。
それぞれのテーマを中学2年生が、どのように論じたのかご覧ください。
「差別」
差別とは自分と同じでない人間を受け入れられない人の心の弱さの表れ。人は面倒と向き合うこと避け、“協調性という魔の道具”で安心を求めた。区別と差別は異なるが、それらは似ている。区別と差別を読み間違えないようにどう行動するかを考えることが重要。
「勇気」
自分を犠牲にしてでも、大切な人を最後まで守り抜こうとする“勇気”、政府の命令に背いてでも人々を救おうとする“勇気”、迫害されたとしても、誰かを愛し続ける“勇気”、突然、友達が敵になったとしても最後まで友達でいる“勇気”、生き延びた者としての責任を果たそうとする“勇気”。5つの物語、そして全てのユダヤ人がもっている“勇気”。
私たちはこの“勇気”を受け継ぐ義務があるのだと思う。
「平和」
ユダヤ人へのホロコーストがあったという事実が残されているからこそ、今、残された記録と共に、私たちが次の世代つくっていく上で、平和について考えなければならないし、自分たちが争いもなく、平和に暮らせているこの状況に感謝すべきである。
「社会」
社会とは人を流しやすいものである。良い方向にも、悪い方向にも動かすことが出来るが、悪い方向に動かすことが多い。社会全体において正しいと決められたものは、悪い事でも正しくみなされてしまう。その流れに反抗することは難しいが、反抗する人は必ずいる。そのような人が、また社会を変えていく。
「人間」
人間として生きていくためには、世界を変えるという強い意思、楽しい日々を過ごすんだという強い思いのもと、相手がたとえ強い権力をもったものであっても、戦う覚悟が必要。たった1人では無理でも、集まれば強いということを忘れず、仲間と自分を守るために、耐えるのではなく戦う。
教育方針の一つに「奉仕、正義、平和をめざす教育」を掲げる本校では、「平和」の重要性を語るだけでなく、その実現が簡単ではないということについても触れてきます。このことが真の意味での「平和」の実現につながると信じています。