2024年度

先生のお話(2024年6月1日の宗教朝礼より)

投稿日2024/6/22

晃華学園では毎週土曜日、全校生徒にむけて教員が自分の考えを放送で語ります。
生徒にとっては、カトリックの価値観はもちろん、教員個人の多様な価値観に触れ、自らの価値観について考える機会となっています。

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ミサの終盤、祭壇にパンが運ばれ、ワインが注がれると、聖堂の中は緊張感に包まれます。ベルがチリンチリンと鳴らされる瞬間ですね。このパンとワインを分け合う儀式は、イエスキリストが弟子たちとともにした最後の食事を表しており、キリスト教のミサの中で大変重要な意味を持っています。ワインは「キリストの血」であり「大地の恵み、労働の実り」です。私は晃華学園の教員になる前、食とワインに関わる仕事を10年ほどしてきました。今日はその時に心に残ったエピソードをお話ししたいと思います。

当時、店舗で販売の仕事をしていた私は、ワインの知識を深めたい、お客様に信頼してもらえるような接客がしたいと思い、自分で勉強をしてワインに関する資格をとりました。すると、資格をとったことで新しい経験ができるようになりました。会社から推薦してもらい、とあるワインのコンクールの審査員をすることになったのです。何百人もいる審査員のうちの一人、とはいえ、当時はまだ若く、ワインに関する経験も少なかったので、正直に言うと気が重かったことを覚えています。私にできるのだろうかと不安でいっぱいでした。

さてコンクール当日、5人ひと班でグループになり、審査を進めていくのですが、着席して自己紹介などをするなかで、班のリーダーだった女性に、私の不安な気持ちを話してしまいました。私にきちんと評価できるのか心配です、と。

するとリーダーはこのように言ってくださいました「このコンクールに出品されるという時点で、生産者さんが心を込めて作った素晴らしいものなのです。だから美味しくないワインはないのです」

この言葉を聞き、とても心が軽くなったのを覚えています。残念なところを探そうとするより、良いところ探す方が気持ちが良いからです。素晴らしいもののなかから、キラリと光る個性を見つけようと思う方がワクワクします。この日に大先輩から頂いたこの言葉は、教員になった今でもずっと心に残っています。

しかし私たちは、日常生活の中で、どうしてもネガティブな方に目を向けてしまいがちです。「あの人が苦手!」と思ったら、素敵なところを見つけるのをやめてしまっていませんか。それはとてももったいないことだと思います。

「あの子は勉強ができる、あの子は運動ができる、あの子はとっても優しい、どうせ私なんて…」と自分の素敵なところを見つけるのをやめてしまっていませんか。今日できたことに目を向けるのを忘れていませんか。それもとてももったないことです。あなただからこそできること、あなただからこそ考えられることが必ずあります。そんなあなた自身を大切にしてほしいのです。

みなさんはひとりひとりが、神様から、そして周りのたくさんの人たちから愛されて大切にされてきた、素晴らしい存在なのですから。

さて、最後に話は変わりますが、いわゆる高級で高価なワインは、長い「熟成」という過程を経ています。熟成させないと酸味や渋みが強いからです。元気いっぱいだけど尖った味、と言ってもいいかもしれません。ワインは樽の中や瓶の中で、わずかな空気に触れ、少しずつ様々な化学変化を繰り返していきます。そして適した環境で何年も熟成を重ねるうちに、角が取れて、柔らかく、エレガントになっていくのです。そして調和の取れた味わいになります。私は、ワインの熟成に、人の成長していく姿を重ねずにはいられません。

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