2019年度

ねずみ女房(3学期始業式 学校長の話より)

この記事は1年以上前の記事のため、内容が古い可能性があります。
投稿日2020/1/7

皆さんおはようございます。

ねずみ年が始まりました。ネズミも昔話や絵本の主人公や脇役で登場してきますが、皆さんはどんなお話を知っていますか。「おむすびころりん」のお話は覚えていますか。「ネズミのすもう」は?子どものころに読んでもらった記憶があるような、ないような、という感じでしょうか。それなら、リーピ・チープは?この名前を知っている人は、ある物語の通ですよ。リーピ・チープは、「ナルニア国物語」の第二章「カスピアン王子の角笛」に登場します。知っていましたか?彼は、物言うネズミでの族長で、騎士道精神に溢れた勇敢なネズミです。

さて、新年最初の始業式にあたって、皆さんに紹介したいネズミがいます。ルーマー・ゴッデンの「ねずみ女房」の主人公のメスねずみです。彼女は「ほかのねずみと違いました」。見かけはほかのねずみと少しも変わりません。ほかのメスねずみがするように、彼女も、巣の掃除やえさ集めに忙しく動き回っています。でも、ほかのねずみとは違うのです。違いを生み出しているものはなんでしょうか。それは、彼女が星を見たことに起因しています。では、彼女は、何故、どのようにして星を見たのでしょう。籠にとらわれたキジバトとの出会いがきっかけで星を見ることになりました。しかし、その出会いの前に、彼女には、それが何かはわからないけれど、欲しいものがありました。夫のオスねずみからは、「これ以上なにが欲しいというんだ」と言われます。衣食住が一応整い、夫がいて、さらには子供がいて、外面的には満ち足りた生活です。しかし、彼女は、自分でもわからないけれど、何かが欲しかったのです。そのためかどうなのか、彼女は、いつも、ウイルキンソンさんの居間の窓敷居に上がって、季節が移り変わっていく外の景色を、じっと見ていました。意味がわからなくても見ていました。ある時、窓敷居で、籠に捕らわれの身となったキジバトを見ます。そして鳩と仲良くなり、鳩から、外の世界のことをいろいろ話してもらいます。何なのかわからずにでも見ていた窓の外の世界を知っていくにつれて、彼女の心が開かれていきました。彼女は、鳩は外の自然の中にいるのが本当の居場所だと気づき始め、ある夜、鳩を逃がしてあげたのです。鳩を逃がすということは、もう自分に外の世界を語ってくれるものがいなくなるということです。それがわかっていて、鳩を逃がしたのです。

鳩が飛んで行ったあと、彼女は、空いた窓から空を見上げ、星を見つけます。初めて輝く星を見た時、これは新品の金ボタンに違いないと思いました。でも、そのすぐ後で、あの星は、自分が見ている一番遠い木よりも遠くにあるものだということに、気が付きました。そして、鳩に話してもらわなくても、自分の力で星を見ることができたことに誇りを感じます。彼女はその体験を通して、ほかのねずみとは違うねずみになったのです。

ところで、星とはなんでしょうか。星には、個性や独自性、また、人生を導く促進力などのシンボルとしての意味があります。メスねずみは、ほかのねずみとは違う自分、つまり、自分とはこういうねずみなのだ、というアイデンティティの自覚、自分の独自性が欲しかったのではないかと私は思います。そして、それを見つけました。メスねずみは、自分に対する誇らしい気持ちで巣に帰ります。

今述べたように、星はシンボルです。星を見つけた人は、それに向かって歩み始めます。星は人に行動を促します。皆さん一人ひとりにとって星は何でしょう。探してみましょう。どこに自分の星があるのか。星を見つけることは、ほかの人と違う人になること、つまり、世界にたった一人の自分を見つけることです。

これで話を終わります。

 

page top