(その2はこちら)
地理での最後の活動として、もう一度、調理実習班で“人に優しい食事”を考えてもらいます。
ただし、一回目の調理実習班での活動とは違う部分がいくつかあります。
生徒は“優しさ”を考えるための知識を増やしているため、より多角的に“優しさ”を考えることができます。
さらに、課題の冒頭で、生徒が自分の価値観を明確にするところも大きな違いです。
調理実習班の中で、生徒一人一人が、自身の選んだ「最も人に優しい食事だと思うメニュー」を発表し合い、そのメニューが優しいと考える根拠は何なのかを、主張し合います。
生徒たちは、自分と他者の優先する“優しさ”が違うことに気が付き、お互いの根拠を知ることで、多様な“優しさ”に関する考え方があることを知ります。
この上で、調理実習班で一つの“人に優しい食事”を作り上げていきます。
この時、二つの困難にぶつかります。
一つ目に、“優しさ”に関する知識が増えているため、全ての“優しさ”を同時に成り立たせることができないという問題があります。例えば、以下のような“優しさ”を巡る議論がありました。
生徒A「味噌汁は体も温まるし、栄養バランスから考えても良い料理だ」
生徒B「でも、大豆アレルギーの人が食べられないよ、大豆アレルギーの人がかわいそうだ」
生徒C「ブイヨンを入れた野菜スープにしたらいいんじゃないかな。スープだから体も温まるよ」
生徒D「ブイヨンが入っているとイスラム教徒の人は食べられないんじゃないのかな」
二つ目に、予算に関する困難があります。
一食分の予算は370円であるため、予算の観点からも全ての“優しさ”を実現することは困難です。
このような困難の中でも、最大限の“優しさ”を実現できるように、生徒たちは奮闘していました。
食べやすさと調理のしやすさを考慮しておにぎりを選ぶ班、
フェアトレード食品を積極的に使う班、
腹持ちを考慮してイモを使う班など、最初の活動よりも多種多様な“優しさ”を取り入れる班が多くありました。
このような困難に直面したからこそ、生徒たちには学ぶことがあったようです。
一つのふりかえりを紹介します。
私が今回の取り組みで難しいと感じたことは、一人一人が求めていることが違うということです。「ハラル」や「値段」「食べやすさ」「アレルギー」「栄養」など、それぞれ注意したいことが違います。その中で、どれだけ値段をおさえ、同じ献立を皆がおいしく食べられるかを考えました。今後、私たちが人に優しい食事を実現するためには、周りとのコミュニケーションを取ることが必要だと考えました。コミュニケーションを取るとことで、いつどんな状況であっても相手が何を求めているかを知ることができるからです。
ここまで、震災の炊き出しのために、“人に優しい食事”を考えてきました。
ところで、被災者全員が、日本語を話すことができるのでしょうか。
最後に英語の授業でも、“人に優しい食事”を考えます。
英語科の教員が
熊本の震災で被災した人は日本人だけではない。熊本に住む外国の方も被災したが、外国の方は避難所に行った際、言葉が分からず非常に不安であった。
という説明を行います。
その上で、生徒たちは自分たちの作った“人に優しい食事”を英語で説明する課題に取り組みます。
この課題では、調理実習班に分かれ、料理名・材料・それに対する説明・アレルギーの有無・宗教などを英語で記載するシートを完成させていきます。
この時、英語科の教員が強調したことは、メニューを直訳するのではなく、不安な外国の方でも分かるような説明をすることです。
生徒たちは、辞書を使い自分たちで単語を調べ、“人に優しい食事”を分かりやすく説明する努力をしていきます。
「海苔」を辞書で調べ“laver”と訳したグループに対しては、教員から「“seaweed”の方が一般的。辞書のそのままの表現が分かりやすい表現とは限らない。」というアドバイスが入ります。
また、生徒は教員に質問しながら、“easy to eat(食べやすい)”のように、まだ学習していない文法事項についても、学んでいきます。
このように、“人に優しい食事”を分かりやすく伝えるという目的に向かって、生徒は“いきいきと”英語を学んでいきました。
英語による”人に優しい食事”の説明
以上のように、食品添加物・農薬・アレルギー・遺伝子組み換え・栄養素・地産地消・食べやすさ・調理方法・片づけ・フェアトレード・宗教・外国人被災者など様々な観点から、“人に優しい食事”を考える授業が、コラボ授業「“人に優しい食事”を考える」です。
この授業の特徴は、一つ目に、様々な教科を通して、“優しさ”の多角的なあり方を学習することにあります。
二つ目にその“優しさ”を、全て同時に実現することが困難であることがあります。
三つ目に、実現することが困難であるからこそ、どの“優しさ”を優先するのかを巡り、他者との間で議論が生まれることがあります。
やがて晃華学園を巣立つ生徒たちは、何かの目標に向かう中で、様々な困難にぶつかると思います。全てを理想的な状況で実現することはできないかもしれない。
その時、他者と対立し、あきらめて、目標に向かう歩みを止めないでほしい。
決して歩みを止めず、他者との違いを分かり合い、乗り越え、他者と力を合わせて、理想に向かってほしい。
晃華学園の授業が、生徒たちがより良く生きていくヒントになればと願っています。
その他のコラボ授業:【高校1年生 コラボ授業「囚人のジレンマ」(政治経済×数学)】
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