「皆さん、明けましておめでとうございます」。
中高創立50周年を記念する諸行事など色々な出来事や想い出と共に2013年という年は去って、新しい年が静かに始まりました。
「明けましておめでとう」新年を迎えますと毎年、日本国中、当たり前のようにこの挨拶を交わします。正月が芽出度いと考えるようになった歴史はかなり古いと言われていますが、いつ頃からかは定かでないようです。
聖書の中で「正月」に相当するのは、秋の収穫祭ですが、収穫祭が祝われるのは10月頃でした。その後、バビロンに国を滅ぼされ、捕囚としてバビロンにまで連行されていった時に、イスラエルの人々は、その昔、神様が自分達の先祖をエジプトから奇跡的に脱出させてくださったことを思い出します。そして今度は再び、バビロンから脱出させてくださいと彼らは祈ります。それと共に、春の収穫感謝祭が出エジプトを記念する過ぎ越しの祭りとして、大きな意味を持ってくるようになりました。しかもバビロンでは、その月をニサンの月と読んでいましたが、それは「出発」という意味でした。そうだ私たちも新しい出発をしよう、そう思ったのです。
「この月をあなたたちの正月とし、年の初めの日としなさい」(出エ12:2) こうしてイスラエルでは正月を出発の月として祝うようになりました。正月は「もういくつ寝たらお正月」と来るのをただ待つのではなく、もう一度、心を固めて出発し直す時となったのです。
人生はそれほど長くはありません。無目的に貴重な時間を浪費するには余りに限られた時間です。「本当に自分の人生に悔いはない。やるべきことは精一杯やった。生まれてきてよかった。」と言えるような人生を送るためにも、正月をボンヤリ迎えるのではなく、心を固め、決意も新たに新しい出発をする機会にしたいと思います。
ところで、新しい年を迎える度に、或いは、人生の節目節目で新しい出発が出来るということは、「人生はやり直しができる」し、「自分を変えることができる」ということでもあります。
福音書の中には、キリストのなさった多くのたとえ話がのっていますが、オヤッと思うたとえ話がたくさんあります。その中の一つに、「不正な管理人」のたとえがあります。この管理人が主人の財産を使い込んでいると告げ口する者があって、主人はこの管理人を呼びつけ会計報告を要求し、もうお前に財産管理の仕事は任せられないと申し渡します。そこで管理人は考えます。ここで管理人の仕事を取り上げられたらどうしよう、肉体労働する力はないし、物乞いするのも恥かしい。そうだよい方法がある、と一計を案じます。早速、管理人は、自分の主人に負債のある者を次々に呼び出し、自分の目の前で借金証文を書き直させ、負債を大幅に軽減してやるのです。つまりこの管理人は、自分が不正に使い込んだ分に加えて、他人の借金証文まで書き換えてやることで、主人には二重、三重の損をさせます。そうやって相手に恩を売っておけば、仕事を失っても、この人たちが自分の面倒を見てくれて、再就職の世話もしてくれるだろうというわけです。
さて不可解なのは、自分にこのような不正を働き大損させた管理人のこのやり方を、主人は巧妙なやり方だと大変感心していることです。普通なら主人は大いに怒り、管理人の不正を訴えて裁判を起こすはずですが、この主人は管理人を褒めています。一体またどうして、主人は褒めたのでしょうか……。
勿論、管理人の不正なやり方そのものを褒めたわけではないでしょう。主人が褒めたのは、第一に、自分の不正が主人にばれてしまったことで、もう駄目だと観念し、人生をあきらめてしまうのではなく、何とか窮地を打開しよう、首になっても生きていく方法を見つけようと必死に考えた、あきらめないその姿勢、態度です。第二に、管理人が職を失いそうになって、自分が何をなすべきであったか真剣に考え直し、本来、管理人として気配りしなければならなかった他の人々の存在に気付いたということです。利己的な動機からではありましたが、他の人が彼の生活の中に入ってきました。そしてついに彼は人のことを考えるようになったのです。そのことを神は褒めているのです。
この管理人の意向は、褒められたものではありません。でも周囲の人々に目を向け、友人をつくり始めました。主人は意向の純粋さを問題にするより、実際の行動によって他者とどう関わったか、その方がもっと大切だと考えているようです。どんなに立派なよい意向を持っていても、具体的な行動に移さなければ、目の前の人を助けることも、人を喜ばせることも出来ないからです。また何か失敗しても、どうしてもうまくいかないことがあっても、「生きている限り、人生はやり直しができる。あなた方の負債には目をつむって、損はわたしが引き受ける。だから大いに勇気を出してやり直しを図りなさい。」……このたとえ話を通じて、キリストはそう私たちに語りかけておられるのではないでしょうか。
さて2014年は、昨年、創立50周年を祝った中高が、次の50年に向かって新しい出発をする年です。創立以来、学園の成長と発展に尽力してくださった方々が築いてくださった学園のよき校風と伝統を引き継いで、「よりよい学園」、「よりよい学年とクラス」をつくるために、一人ひとりが「よりよい自分」になっていくという大きな理想と目的に向かって、失敗を恐れず困難にひるまず、前を向いて進みましょう。そしてもう一度、心を固めて新しい出発をしましょう。