お早うございます。今年の夏の暑さは正に記録的でしたが、長い夏休み中に生徒の皆さんには大きな事故や怪我、病気もなく、こうして始業式で皆さんの元気な姿、表情に接することが出来てうれしく思います。
さて今日から2学期ですが、先ずは夏休み中の比較的時間に自由だった生活を、規則正しい学校生活のリズムに戻しましょう。文化祭は10日後に迫っていますし、11月には、晃華学園中高創立50周年を祝う周年行事が予定されています。これまで学園がお世話になった方々、学園の発展に様々な形で貢献してくださった恩人の皆様をお迎えして、記念の式典が行われますが、学園にとって大事な節目に当たります。わたしたちに求められていることは、創立以来、先輩たちが苦労し、また努力を積み重ねて築いてくださった晃華学園のよき伝統をしっかりと受け継いで、更に発展させていくことです。
創立50周年を迎えるにあたって、私たちはこの50年間の教育の歩みを振り返りつつ、次の50年を展望し、「目指す生徒像」を“多文化共生の世界に開かれた品格のある女性”といたしました。
21世紀に入り、盛んにグローバル化が叫ばれるようになり、教育においてもグローバル化する社会で生き抜く力をもった若者を育てることが重要な課題とされています。晃華学園は創立以来、カトリック(普遍的、世界的)の人間観、価値観に基づいた人間教育と語学教育重視の教育方針を掲げ、国際的視野に立つ女性の育成を目指してきました。この教育方針は、グローバル時代の学校の教育方針としてそのまま有効であると考えますが、グローバル化する社会、世界をどう捉え、そこで活躍するのにどんな力を育てたらよいのか、という点で国や企業とカトリック学校では多分、重点の置き所が違うのだろうと思います。
カトリック教会は二千年の歴史を持っていますが、イエスは二千年前にすでにご自分の弟子たちに「全世界に行って、すべての造られたものに福音を宣べ伝えなさい」と命じています。つまり最初から世界に開かれていました。イエスが全ての人に伝えるようにと弟子たちに命じた教えは、全ての人に例外なく注がれる、父としての神の無償の愛であり、その神の愛に生かされて人が互いに兄弟として生きることでした。このイエスの教えは、グローバルな世界で利害や対立、文化や価値観の違いを乗り越えて人が共に生きていく上で規範になる教えだと思います。晃華学園が「目指す生徒像」を“多文化共生の世界に開かれた品格のある女性”としたのは、このようなイエスの教えが根底にあります。
ところで“多文化共生の世界に開かれた品格のある女性”といわれても、皆さんには今一つピンと来ないかもしれません。けれども素晴らしい生きたモデルを神様は私たちに与えてくださいました。夏休みに入る1週間ほど前(7月12日)に、ニュ−ヨークの国連本部で、「すべての子ども、特に女子に教育を受ける権利の実現を!」と世界に向けて訴え、多くの人に深い感動を与えたパキスタンの16歳の少女、マララ・ユスフザイさんを皆さん、覚えているでしょうか。
マララさんの住むパキスタン北部の山岳地帯はイスラム過激派(パキスタン・タリバン運動)の勢力が強いところで、彼らは女性が教育を受け、仕事に就くことを認めず、多くの女子校が爆破されました。2009年1月、当時11歳だったマララさんは英国BBC放送のブログで、武装勢力による女子校の破壊活動などを告発し、女性にも教育が必要だと訴えました。恐怖に脅えながらも屈しない姿勢が多くの人々の共感を呼び、とりわけ教育の機会を奪われた女性たちの希望の星となりました。同時にマララさんはイスラム過激派武装勢力から命を狙われる身となり、2012年10月9日、スクールバスで下校途中、武装集団に銃撃され重傷を負いました。幸い一命はとりとめましたが、15歳の女子学生を狙い撃ちにしたテロ事件は世界中に大きな衝撃を与えました。そのマララさんが、再び元気な姿を見せるとともに、銃撃されても信念を曲げず、教育を受けられない子どものための活動を続けると、国連本部から世界に向けて演説したのです。
マララさんの国連演説の中で特にわたしが心を動かされたのは次の箇所です。
(1) 「タリバンは私の額の左側を銃で撃ち、友人も撃たれました。彼らは銃弾で私たちを黙らせようとしたのです。でも失敗しました。私たちが沈黙したその時、数え切れないほどの声が上がったのです。テロリストたちは私たちの目的と志を阻止しようと考えたのでしょう。しかし私の人生で変わったものは何一つありません。次のものを除いてです。私の中で弱さ、恐怖、絶望が死にました。強さ、力、そして勇気が生まれたのです。私はこれまでと変わらず『マララ』のままです。そして私の志もまったく変わりません。私の夢も希望もまったく変わっていないのです」……マララさんの勇気と使命感、志の高さに頭が下がります。
「私はタリバンや他のテロリストグループへの個人的な復讐心から、ここでスピーチをしているわけではありません。ここで話している目的は、全ての子どもたち(全ての過激派、とりわけタリバンの息子や娘たち)のために教育が与えられるべきだと主張することにあります」(自分を撃ったタリバン兵士さえも憎んでいません。これは私が預言者モハメッド、キリスト、ブッダから学んだ慈悲の心です)
(2) 「私たちは暗闇の中にいると、光の大切さに気づきます。私たちは沈黙させられると声を上げることの大切さに気づきます。同じように、銃を目にしたとき、ペンと本の大切さに気づきました」(学校に通えなくなり、勉強する機会が奪われた時に、その価値が分かる)
(3) (演説の後半)「全ての政府に、全世界の全ての子どもたちへの無料の義務教育を確実に与えること、テロリズムと暴力に立ち向かうことを求めます。先進諸国に、発展途上国の女の子たちが教育を受ける機会を拡大するための支援を求めます。世界中の女性たちに、勇敢になることを求めます。自分の中に込められた力をしっかりと手に入れ、そして自分たちの最大限の可能性を発揮してほしいのです」(⇒女性の自由と自立が世界の平和と真の繁栄をもたらす)
「親愛なる少年少女の皆さん、私たちは今もなお何百万人もの人たちが貧困、不当な扱い、そして無学に苦しめられていること、……何百万の子どもたちが学校に行っていないことを忘れてはいけません。
(4) (演説の結び)「無学、貧困、そしてテロリズムと闘いましょう。本を手に取り、ペンを握りましょう。それが私たちにとってもっとも強力な武器なのです。一人の子ども、一人の教師、一冊の本、そして一本のペン。それで世界を変えられます。教育こそが唯一つの解決策です。EDUCATION FIRST(教育を第一に)! 有難うございました」
16歳の誕生日を迎えたばかりのパキスタンの少女が自分の体験に基づいた信念を、このように世界に向かって訴えています。日本という豊かで平和な環境で学ぶ皆さんには、マララさんのような厳しい環境の中で命懸けで学ぶということ自体、理解するのは難しいかもしれません。でもマララさんの必死の訴えに耳を傾け、途上国の多くの子どもたち、女性たちの置かれている境遇に想像力を働かせましょう。そして、今日もこうして学校に通って学べることの有難さ、教育を受けることの意味を噛みしめ、今、自分たちが受けているこの恩恵を、教育を受ける機会に恵まれなかった人々にどう還元していくのかを考えながら、2学期の学校生活をスタートさせていただきたいと思います。