晃華学園では、一つ課題を複数の教科の知識を使って考える「コラボ授業」を行っています。将来、生徒たちが自分のため・人のために力を発揮しようとする時に、一つの教科だけの知識で良いわけがありません。
生徒たちが、教科の枠にとらわれず、知識を活用し、自分とその周りの人々を幸せにして欲しい。そんな願いを込めて、晃華学園ではコラボ授業を行っています。
以前のコラボ授業の様子
今年度は、感染症拡大による休校や、感染拡大防止のための“話し合い活動制限”により、残念ながらコラボ授業を行う機会がほとんどありませんでした。数少ない今年度の実践例の中から、数学と公民(政治経済)のコラボ授業実践をご報告させていただきます。
数学と公民というと、あまり関係のない教科であるように感じてしまう生徒は多いものです。しかし、政治学・経済学・哲学のいずれも、仮定に基づいた厳密な論理性なくしては成立しません。特に経済分野においては、確立されている数学の理論をどのように現実の社会問題に応用するか、ということが常に研究され続けています。
オークション理論について説明を受ける中2
今回は『オークション理論』という、ゲーム理論の中の1つの考え方について扱いました。
オークション理論とは、米国人のポール・ミルグロム(Paul Milgrom)氏(72)とロバート・ウィルソン(Robert Wilson)氏(83)が2020年にノーベル経済学賞を受賞したことで知られる、オークションに関連する経済学の理論です。
生徒ワークシートより抜粋(著作権の都合上加工しています)
一般的なオークション(=ファーストプライスオークション)では、最終的な落札額が、入札に参加した買い手が設定した評価額より吊り上がる可能性が高く、公共性の高い事業の競売には向いていません。なぜなら、値段が吊り上がったせいで買い手の事業が頓挫してしまうと、買い手にとっても住民にとっても不利益が生じるためです。
生徒ワークシートより抜粋
その状況を解決できる方法として2名が研究したのが、セカンドプライスオークションと呼ばれるものです。これは、“互いにいくらで入札したのかわからない状況で、買い手の中で最も高い入札額を提示した者が、2番目に高い入札額で購入できる”というルールのオークションです。
このオークションの優れている点は
・「買い手にとって最も利益を出すには、評価額ちょうどで入札すればいい」
・「売り手にとって、ファーストプライスオークションとセカンドプライスオークションで期待される利益は等しい(revenue equivalence theorem)」
ということが数学的に証明されている、ということです(すべての入札者が合理的に行動する、という前提が必要です)。
生徒ワークシートより抜粋
厳密な話になると、微分方程式や確率密度関数の話になってしまいますので、理系の高校生でさえも扱うことはできません。その代わりに、具体的かつ単純化した状況を設定し、“あなたが買い手だったらどうしますか?”というケーススタディを行います。
まずはQ1として、ファーストプライスオークションについて考えます。
Q1に取り組む様子
ワークシートに自分の考えをまとめてもらった後、何名かの生徒を指名し、考えを共有しました。
「少しでも安く買うために情報取集を行う」「他の買い手の落札額を予想し、その金額に1万円だけ上乗せして入札する」「他の企業に買われたら嫌だから、赤字覚悟で資金全てをかける」など、多種多様な意見が集まりました。
教員側が予想していた「転売目的で入札する」などの、ある意味で非道徳的(?)な意見は出ませんでした。ピュアな生徒が多いのでしょうか。転売も実際に発生しうるケースであるため、教員の方から紹介しました。
生徒ワークシートより抜粋(著作権の都合上加工しています)
生徒から意見を出してもらった後は、それらをまとめ、ファーストプライスオークションの解決すべき課題を探り明確にしていきます。その後、現実に発生している問題の例として“周波数オークション”を紹介しました。
周波数オークションがファーストプライスオークションで行われた場合、周波数を得るための費用が吊り上がる危険性があります。その場合、通信事業者の資金が減ってしまい、最終的に消費者の負担につながりかねません。これはまさに、ファーストプライスオークションの課題の1つといえるでしょう。
説明をしていくにつれ、「今学習している内容が、私たちの生活に直結しているのか!」ということに気付いた生徒が多く、非常に意欲的な反応をしていました。
オークション理論が現実の問題であることを学んだ後、Q2としてセカンドプライスオークションについて考えていきます。
生徒によって様々な意見が出たQ1に対し、Q2は多くの生徒が「評価額と同じ額で入札する」と良いということに気付いたようでした。
他の買い手の行動によって場合分けを行い、こちらの行動を設定していく考え方は、この時期にちょうど学習していた「場合の数・確率」と同じ考え方です。数学の授業で得た思考力は、現実の課題を解決する時にも活用できるということの良い例となりました。
今回の授業の目的の一つに、生徒に「相手の立場になって考えられるようになってほしい」ということがあります。
短絡的・衝動的に物事を判断してしまうと、他者と自分の両方にとって不利益を発生させてしまうことがあります。自分の都合だけではなく、他者の都合もきちんと認識し、自分のすべき行動を長期的・理性的に判断することで、その集団全体を幸せにすることができるのです。
晃華学園が掲げる「ノーブレスオブリージュ」は、こうした日々の取り組みから育まれていきます。
《過去のコラボ授業》